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大阪地方裁判所 平成7年(わ)1654号 判決 1996年2月26日

本籍

大阪府東大阪市源氏ヶ丘九番

住居

大阪府東大阪市源氏ヶ丘九番一二号

会社員

岡田忠彦

昭和三二年一〇月二二日生

右の者に対する相続税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官室田源太郎出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役八月及び罰金四〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、北野達雄が平成四年四月九日に死亡したことに基づき、同人の長男として、他の相続人とともに右北野達雄から財産を相続した北野正高から依頼を受け、同人の相続税の申告に関わったものであるが、右北野正高、同人の実母である北野美代並びに前同様に右北野正高から依頼を受けて同人の相続税の申告に関わった鈴木彰及び同岡澤宏と共謀の上、右北野正高の相続税を免れようと考え、別紙(一)及び別紙(三)相続財産の内訳表記載のとおり、各相続人の課税価格の合計額が一五億〇四三八万一〇〇〇円であったにもかかわらず、相続財産の一部を除外するとともに、北野達雄が他から合計一一億円の債務を負担していた旨仮装した上、

一  右北野正高の相続財産にかかる実際の課税価格が二億五〇七三万円で(別紙(一)相続財産の内訳表参照)、これに対する相続税額が一億〇六九七万七八〇〇円であった(別紙(二)税額計算書参照)にもかかわらず、前記仮装債務一一億円のうち、法定相続分の一億八三三三万三三三三円を承継したと仮装するなどした上、平成五年一月四日、大阪府東大阪市永和二丁目三番八号所在の所轄東大阪税務署において、同税務署長に対し、右北野正高の相続財産にかかる課税価格が六〇〇六万八〇〇〇円で、これに対する相続税額が一二七〇万六八〇〇円である旨の内容虚偽の相続税の申告書を提出し、そのまま法定の申告期限を徒過させ、もって、不正の行為により、別紙(二)税額計算書記載のとおり、右北野正高の相続税九四二七万一〇〇〇円を免れ

二  前記相続税の申告後の同年一月二八日に行われた前記北野達雄の相続人間における遺産分割により、右北野正高の相続税の修正申告をするにあたり、同人の相続財産にかかる実際の課税価格が七億一五九一万円(修正による増加分四億六五一八万円)で(別紙(三)相続財産の内訳表参照)、これに対する相続税額は三億〇五四五万四一〇〇円(修正による増加分一億九八四七万六三〇〇円)となった(別紙(四)税額計算書参照)にもかかわらず、前記仮装債務一一億円のうち、五億五〇〇〇万円を承継したと仮装するなどした上、法定の申告期限後の同年二月二日、前記所轄東大阪税務署において、同税務署長に対し、右北野正高の相続財産にかかる課税価格が一億八〇二〇万五〇〇〇円(修正による増加分一億二〇一三万七〇〇〇円)で、これに対する相続税額が三五二九万六七〇〇円(修正による増加分二二五八万九九〇〇円)である旨の内容虚偽の相続税の修正申告書を提出し、もって、不正の行為により、さらに、右北野正高の修正による増加分の相続税一億七五八八万六四〇〇円を免れ

もって、別紙(四)税額計算書記載のとおり、右北野正高の相続税合計二億七〇一五万七四〇〇円を免れたものである。

(証拠の標目)

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官調書〔三四七〕

一  分離前の相被告人北野正高、同北野美代、同鈴木彰及び同岡澤宏の当公判廷における供述

一  北野正高〔三三三ないし三三五〕、北野美代〔三四〇、三四一〕、鈴木彰〔三四四〕、岡澤宏〔三四六〕、森口英夫〔三一六〕、髙村久雄〔三一七〕、片岡恵子〔三一八〕、片岡豊〔三一九〕、帆谷幸彦〔三二〇〕、杉本博子〔三二一〕、池上毅〔三二二〕、林田正幸〔三二三〕、草川あい子〔三二四〕、増田義一〔三二八〕、北川六之助〔三二九〕、及び野口義博〔三三一〕の検察官調書

一  吉田千代子の検察事務官調書〔三三〇〕

一  査察官調査書〔二九七ないし三一五〕

一  証明書〔二九四、二九五〕

一  「所轄税務署の所在地について」と題する書面〔二九六〕

(法令の適用)

被告人の判示所為は、包括して平成七年法律第九一号(刑法の一部を改正する法律)附則二条一項本文により同法による改正前の刑法(以下「旧刑法」という。)六五条一項、六〇条、相続税法六八条一項に該当するところ、所定刑中懲役刑及び罰金刑の併科を選択し、その所定刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役八月及び罰金四〇〇万円に処し、右罰金を完納することができないときは、旧刑法一八条により金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予することとする。

(量刑の理由)

本件は、北野美代らから、本件相続税申告に当たり鈴木を紹介するよう依頼された被告人が、北野正高、北野美代、鈴木及び岡澤と共謀の上、北野達雄が死亡したことに伴いその財産の一部を北野正高が相続したことに関し、合計二億七〇〇〇万円余りもの高額の相続をほ脱したものであって、ほ脱率も約八八・五パーセントに達し、納税義務に著しく反する重大事案である。

そこで、被告人の関与の態様についてみるに、本件は、北野達雄の相続財産の一部約一億円を除外した上、一一億円もの架空債務を計上する方法によって敢行されたものであるところ、被告人は、鈴木の行う税務申告手続は脱税であることを十分承知していたにもかかわらず、北野美代らを鈴木に紹介し、その後も、北野美代や北野正高らと鈴木との間の本件脱税に関する話し合いに同席し、その一方、北野美代らを鈴木に紹介した直後から、鈴木に対して本件脱税の報酬の一部を被告人に分け与えるよう要求してこれを約束させ、実際にも本件修正申告後に七〇〇万円を受領しているのであって、このように、被告人は、本件脱税を敢行する上で重要な役割を果たしている上、自らの経済的利益を求めて本件脱税に関与し、実際にも多額の報酬を得ていることからすれば、被告人には本件脱税の共同正犯が成立するのはもちろんのこと、その犯情は悪質であると言わざるを得ない。

なお、被告人は、平成四年一一月ころまでは、右のように本件脱税の話し合いに参加していたものの、そのころから本件修正申告までの間は、本件脱税の話し合いに直接関与した形跡がないけれども、そもそも被告人は、当初から、北野正高、北野美代及び鈴木との間で、北野達雄の死亡に伴う本件相続に関して脱税を敢行することを共謀していたのであり、また、平成五年一月に行われた当初申告は遺産分割協議が未了であるために行われた仮の申告であるに過ぎず、その後遺産分割協議が調ったことから、その具体的な分割内容に基づいて右仮申告の約一か月後に修正申告がなされたことからすれば、被告人が右共犯者らとの間でなした共謀は、右当初申告のみならず、右修正申告にも及ぶことは明らかである。したがって、被告人は、右修正申告における脱税についても刑事責任を免れない。

以上のとおり、本件脱税の規模や被告人の関与及び利得の状況からすれば、被告人の刑事責任は重大である。

一方、本件脱税における不正行為の方法やほ脱税額の決定、あるいは本件各申告書の提出等については、専ら鈴木らが中心となって行ったものであり、被告人はこれらの具体的な犯行には関与しておらず、本件脱税における被告人の関与の程度は低いものと評価できる。また、被告人は、事実を素直に認め、反省していること、被告人にはこれまで前科がないことなど、量刑上被告人に有利な事情も認められる。

そこで、以上の事情を総合して考慮の上、被告人を主文の懲役刑及び罰金刑に処し、懲役刑についてはその執行を猶予するのが相当であると判断した。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田中正人 裁判官 松下潔 裁判官 増田啓祐)

別紙(一)

相続財産の内訳表

北野正高

<総額>

<省略>

<北野正高分>

<省略>

別紙(二)

税額計算書

<省略>

別紙(三)

相続財産の内訳表

北野正高

<総額>

<省略>

<北野正高分>

<省略>

別紙(四)

税額計算書

<省略>

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